イノシシ被害を抑えるには集落ぐるみの防護柵「集落柵」導入が効果的

2020年12月

筆者所属農林総合研究センター 生産環境研究室
職名及び氏名研究員 松村 広貴
題名イノシシ被害を抑えるには集落ぐるみの防護柵「集落柵」導入が効果的

千葉県ではイノシシによる農林作物被害の発生が多く、2018年度の被害金額は2.4億円となっています。被害防止の取組の一つとして防護柵の設置があります。防護柵は個々の農地を囲う個別柵や、近接する農地をまとめて囲うグループ柵が一般的でしたが、近年は農地だけでなく、家屋や道路等を含む集落全体を囲う集落柵の導入が複数地域で始まっています。そこで、集落柵によるイノシシ被害軽減効果を検証しました。

まず、集落柵設置によるイノシシ出没状況の変化を確認しました。集落柵設置予定の集落において、10m四方の区画を1,264区画設定し、その区画内で約1か月間に新しく残されたイノシシの痕跡を柵設置前後に踏査しました。その結果、設置前には集落全域の303区画で痕跡が確認されましたが、設置後は82区画と集落内でのイノシシ出没が大きく減少しました(図)。

次に、集落柵のイノシシ水稲被害軽減効果を確認しました。3つの地域において防護柵無し、個別柵やグループ柵設置、集落柵設置の水田圃場計206筆の被害状況を現地踏査しました。その結果、調査圃場に対する被害発生圃場の割合は、防護柵無しの48.1%に比べて、個別柵やグループ柵設置で23.8%、集落柵設置で11.4%と、いずれの柵でも被害が抑えられていました。特に、集落柵でより高い効果がみられました。

しかし、倒木や土砂崩れ、イノシシ等による破損の補修や草刈り等の管理が不足する集落では、集落柵でも被害が抑えられない事例も見られました。効果を長期間発揮するには、柵の補修管理を適切に行う必要があります。設置後の補修管理体制について、集落全体の十分な合意がなされた上で導入することが望まれます。

図 集落柵設置前後の柵内部でのイノシシ痕跡地点の比較

※背景に「地理院タイル(電子国土基本図(オルソ画像))」を利用。